鈴木良太(イカ王子)様
イベントブース・デザイン

 

リクエスト

東日本大震災後に「イカ王子」と名乗り、「王子のぜいたく至福のタラフライ」をはじめとするヒット商品を生み出してきた鈴木良太さん。地元宮古はもちろん、三陸の水産を盛り上げたいと長らく奔走してきましたが、2023年にご自身が経営する会社が民事再生法の適用を申し立て、一旦「イカ王子」としての活動を中断することになりました。

しかし、この2025年夏、鈴木さんはフリーランスとして独立。約1年半のブランクを経て「イカ王子」として活動を再会することになりました。もう一度、三陸を盛り上げていきたいと新たな情熱を燃やす鈴木さんに深く共感した弊社は、鈴木さんとパートナーシップを結び、クリエイティブ業務を全面サポートすることになりました。

この流れから盛岡市で開催されるクラフトビールのイベントに「イカ王子」として出店を決定。約1ヶ月後に控えた「イカ王子再始動」第一弾に向けて、イベントブース・デザインを核とするクリエイティブの制作が始まりました。

今回は鈴木さんとの共同事業という内容のため、通常のクライアントワークとは異なる作業になりましたが、いつもと同様にミーティングを重ねながら、既存の「イカ王子」イメージを完全に刷新し、「新しいイカ王子」を作り上げることになりました。

 

クリエイティブの視点

「新しいイカ王子」のモチーフとしたのは、世界中で愛されている物語、『星の王子さま(サン=テグジュペリ/著)』です。すでに実際の「イカ王子」を知っている方からすると、優しくて可愛い星の王子さまとイカ王子では大きなギャップを感じるかもしれません。なぜなら、これまでのイカ王子のキャラクターを言葉で表現するならば、どこかロックでどこかキッチュ。三陸への愛が募るあまりしゃべりすぎるのが常で、「暑苦しくてくどい」=「イカ王子」という図式が生まれてしまっているほどでした。

それでも、イカ王子の再始動にふさわしい表現を探した私たちが辿り着いた先は、あの『星の王子さま』でした。理由は星の王子さまが探していた「ほんとうに大事なこと」とイカ王子の思いがシンクロしていたからです。

イカ王子の思い。それは「本当に美味しいものを届けたい」という、とてもシンプルなものです。ですが今の時代、それは簡単なことではありません。現在の社会のなかで優先されるのは常にマネーであり、美味しい素材を美味しいまま届ける行為ではないからです。結果、素材本来の姿を歪曲された食べ物が、わたしたちのもとに届けられます。この状態を少しでも変えていきたいと願っているのがイカ王子です。

『星の王子さま』の物語のなかで、王子様と出会ったキツネが「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ」と語る場面があります。この言葉で星の王子さまは、「本当に大切なこと」の存在に気づくわけですが、もしかしたらこの言葉は今の時代における「食べ物の美味しさ」を言い換えられると言ってもよいかもしれません。

イカ王子は常日頃から「美味しさを奪う行為が多すぎる」と嘆いています。だとすると、私たちの目には「美味しさ」が見えなくなっているのかもしれません。まさに「かんじんなことは目に見えない」です。

星の王子さまとイカ王子はこうして私たちのなかで一本の線でつながりました。サン=テグジュペリが描いた何とも愛らしい「星の王子様」をオマージュとして、どこかゆるくて可愛らしい「イカの王子様」へとイメージを固めていきました。そしてこの「イカの王子様」を中心に、アートワークやロゴ、イベントブース・デザインへと展開させていくことが決まりました。

イベントブース・デザインとしての制作物は、テントの上に掲げて使用する看板、長机に巻いて使用する腰幕、のぼりです。ブース全体で立体的に「イカの王子様」の世界観を作り上げるとともに、イベントの主力商品のひとつであるフィッシュ&チップスの魅力が伝わるデザインに落とし込むという方向性で、制作を進めていきました。

フィッシュ&チップスの写真をダイナミックに使用した看板では、慎重なトリミングによって緊張感と臨場感を生み出しています。ポイントは、被写体がしっかりとフィッシュ&チップスとして見えること。制作側からすると被写体の情報は明らかなものとして見てしまいますが、初めて見る人にどう見えるかという視点の意識がなければ、トリミングによって写真の良さを壊してしまう可能性もあります。この意識を持って、写真の持つ迫力と被写体の情報がバランスよく伝わる、そのギリギリのところを狙ってトリミングをすることで、引きの強いデザインに仕上げることができたと感じています。

腰幕では看板との一体感を重視し、イカの王子様のイラストをメインにあしらった、鮮やかな黄色が映えるデザインを制作しました。ここでは特に、文字情報や切り抜き写真などの要素とイラストの世界が自然に馴染んで見えるよう、余白と遠近感を意識し、平面の世界に奥行きと動きを作り出しました。

のぼりはフィッシュ&チップスをメインとしたデザインに加え、イカ王子ブランドのロゴをあしらったデザインも制作しました。横位置のデザインである看板に対し、のぼりは縦位置での見せ方になりますが、ここでも写真のトリミングの意識は変わりません。また、イカ王子ブランドののぼりデザインについては、本来なら真っ白に設定している部分を少し黄色味がかった白にしたり、逆に黄色の彩度を落としたりと、デザイン面積にあった見せ方となるよう工夫をしています。

お客様とパートナーシップを結んでの制作は初めての試みでしたが、イカ王子の再始動の幕開けを、クリエイティブの力で後押しすることができた制作になったと感じています。今後もイカ王子やイカ王子ブランドの商品をより多くの人に届けられるお手伝いを、クリエイティブの観点から積極的にサポートしていきたいと思います。

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